2004-08-01から1ヶ月間の記事一覧

【061】連載小説「歯医者 =一回目=」

ぬーうぅぅ、歯医者か、今日か、行きたくねえなあ 物憂げに時計を見ながら、ため息をつく。彼の歯は、元来虫歯になりにくい歯であったため、彼は歯医者にはほとんど行ったことが無かった。せいぜい乳歯を抜くときくらいだろうか。なので、歯医者に行くこと自…

【062】連載小説「歯医者 =二回目=」

「えーじゃあね、今日はねー、前歯の残ってるところ治療していきますからね」 「あい」 口を開けたまま返事をしたので、なんだか発音が不明瞭になってしまった。以前の治療で、全然痛くないと言うことを学習した彼は、返事が出来るほど心に余裕が出来ていた…

【063】連載小説「歯医者 =三回目=」

彼は楽しかった。あれほど嫌っていた歯医者が今や楽しくて楽しくて仕方ない。治療の痛みの軽さもさることながら、受付の娘に半ば本気で惚れたという、小学生並の動機が彼を歯医者へと向かわせていた。 「えーと、じゃ、今日から奥歯の治療していきますからね…

【064】連載小説「歯医者 =五回目=」

結局、前回も神経の治療だったし、いつになったら治んのかなあ 前々回で、今回初めての麻酔を打たれ、ショックを受けた少年だったが、前回の頃にはすでにそれさえも慣れ、残るのは治療が長引いていることに対しての焦燥感だった。 「あ、三村さんこんにちわ…

【065】連載小説「歯医者 =地獄=」

なんか痛い。 前回の治療が終わり、家に帰ってから一時間ほど経った時のことだった。打った麻酔が切れてきたのか、じわじわと痛みがぶり返してきていた。それは治療後にはよくあることで、対して珍しくもないのだが、今回は少し感じが違うようだった。 ヤバ…

【066】連載小説「歯医者 =再来=」

少年は悩んでいた。幾分マシになったとはいえ、奥歯の痛みは定期的に少年を苦しめ、口を閉じるたびに痛みを与え続けた。 痛い・・・・ 思い切ってこのことを親に相談すべきだろうか、いや、痛みに弱い奴だとバカにされるのがオチだろう。しかし、次の診療ま…

【067】連載小説「歯医者 =怒=」

「あのー、この間診てもらったところが痛むんですけど」 「あ、はーい。じゃ、少々お待ちいただけますか」「はあ・・・」 結局、痛みは治まらず、少年は病院に行くことになった。いつもと違いある思いが少年の心の大半を占めていた はぁーぁ・・・ もしも、…

【068】連載小説「歯医者 =不安=」

「ねー、ご近所さんから聞いたんだけどねー あそこM歯科って結構ヤブらしいよ?」「知ってる」 知ってるって言うか思い知らされたよ、ああ、あんなとこ行くんじゃなかった。もっと上手な歯医者があるのに、っていうかあそこ以外はどこも上手な気がする。し…

【069】連載小説「歯医者 =ハルク=」

痛みは無かった。 治療後にくる痛みは当然あったものの、少年が懸念するような痛みは無く、柔らかいものなら、噛んでも全く問題なかった。 今日は個体か・・・・ 痛みが無いと言っても、不安の霧が少年の頭から晴れる事は無かった。なぜなら今、奥歯に詰めて…

【070】連載小説「歯医者 =そして伝説へ=」

今日はついに、銀歯を入れる日。少年の心では治療の終了からくる安堵と、天使達との別れに対する悲しみが終わること無い矛盾の螺旋を描いていた。 彼の人生で、どの瞬間をピックアップしても異性(それは彼が気にしているという意味で)と話せた、もっと言う…